KYOTO DAIUNJI

本尊十一面観音

本尊十一面観音「行基作」 秘仏

 

 

 

 

 

 

 

 

 大雲寺の十一面観音様は、桓武天皇が平安遷都に際し洞中に安置され、光仁天皇が仙洞御所に安置されるものを、藤原時平が拝領し、日野中納言藤原敦忠卿に相伝し、その室家藤原明子が勅により仙洞御所ごと大雲寺に移設安置したと古書に記されています。
「長谷の観音の御衣木第二之段を以て、行基菩薩彫刻し給う所の尊容なり、詔により大雲寺に遷座する 云々」(大雲寺堂社旧跡纂要・続群書類従)


天文の戦乱により頂上佛焼失

 天文15年(1546)10月28日 細川玄蕃、山本修理の合戦時に焼き討ちに遭い本尊十一面観音頂上の佛面を損敗します。その後、永禄3年(1560)11月18日仮厨子に納め天皇の命により勅封(秘仏とする)されます。
 元禄3年(1690)に131年ぶりに御開帳され、以後今日まで325年間封印されたまま一度も御開帳されていません。

大雲寺の観音様は 長谷寺の観音様とご兄弟

「長谷寺縁起」によると聖武天皇の御宇、近江国の白蓮華谷に長さ十余丈の倒木があり、それが洪水によって大津の初瀬の神河浦(かみかわうら)郷に流れ着きました。この木は夜になると不思議な光を放ち、触れた者は必ず祟られるといった恐ろし樹で、近づく者もなく長年放置されていました。
 村の長老によって、この木を以て仏像を作ろうとの提案がなされ、村人によって大和国当麻に運ばれましたが、やはり祟りは鎮まりませんでした。奈良の僧「徳道」はこの荒ぶる霊木をもらいうけ、泊瀬で十一面観音の造像を誓願し、729(神亀6)年、地蔵菩薩と不空羂索観音の化身であるといわれる二人の仏師(稽文会・稽主勲)によって、三日間で高さ二丈六尺(約787.3p)の十一面観音像が造り上げられました。
徳道上人はこの十一面観音像を本尊として大和の国長谷寺を開創し、天平5(733)年に行基による開眼供養会が厳修されました。
 この時の御衣木第二之段を以て行基菩薩が聖武天皇の玉体を映して「一刀三礼」の作法で造像されたのが大雲寺に伝わる秘仏十一面観音立像で、長谷寺の観音様と大雲寺の観音様は一木を共にし、姿かたちも同じとされています。
 長谷寺の現在の本尊像は1536(天文5)年落雷被害により焼失し、1538(天文7)年に再興されたものですが、長谷寺の観音焼失の十年後(天文15年)に時同じく火難に遭う奇遇に兄弟佛の縁を感じます。

右手に錫杖、左手に水瓶を持ち磐の上に立たれる観音様

 この観音様は台座の形状が特殊で、一般に観音像は蓮華座上に安置されますが、この像は方形の台上に立っています。これは、地中から出現したという金剛宝盤石を表したもので、現状の台座は宝盤を木で作った磐で覆ったものであり、宝座蓋と呼ばれています。もう一つ御姿を決定的に特徴づけるのが、持物の錫杖です。錫杖を持つ十一面観音は経典には出てきません。
 水瓶は、観音菩薩の象徴で聖水が入っている水差しのことで、観音様が水瓶をお持ちなのは当たり前なのですが、右手に錫杖を携えておられる・・・これは観音様としては大変珍しいことなのです。
 錫杖は、お地蔵様が六道を巡って、人々を救済する象徴として持つ杖で、地に引く際に、錫々と音を立てるところから錫杖と言われています。
元はインドにおいて、僧侶が山野を遊行するとき、錫杖を振り鳴らして害獣、毒虫を追い払い、托鉢の際に門戸に立ったことを知らせた道具だったようです。
 菩薩は如来になるために修行中の身ですが、衆生済度のために、いつも私たちのそばにいてくださいます。観音菩薩は様々な悩みを持つ庶民を救済することなしには、決して如来にはならないと宣言されている有難い菩薩様で、この錫杖には庶民との距離の近さが感じられます。
 このように十一面観音菩薩立像の右手にある錫杖には、市井に降りてきて下さる地蔵菩薩の一面が垣間見えます。観音様でありながら、お地蔵様の要素も兼ね備え一心に願えば、私たちは煩悩を拭い取り、智慧(ちえ)を得ることができるとされています。衆生済度・現世利益のありがたい仏様です。

「光の仏様」 大慈大悲大光普照

 大光普照(だいこうふしょう)観音とも呼ばれ、慈悲の光をあまねく一切の衆生に照らし、吾等凡夫をお救いくださいます。頭上の十一面のうち、前後左右の十面は菩薩修行の階位である十地を表し、最上部の仏面は仏果を表すとされています。これは衆生の十一品類の無明煩悩を断ち、仏果を開かしめる功徳を表すとされていて「救わで止まんじ」の誓願を持つがゆえに、大悲闡提とも呼ばれます。また六観音の役割では、阿修羅道の衆生を摂化するといわれています。
 密教の尊格であり、密教経典(金剛乗経典)の十一面観自在菩薩心密言念誦儀軌経(不空訳)、仏説十一面観世音神咒経、十一面神咒心経(玄奘訳)に説かれています。
またチベット密教では本尊佛が十一面観音でダライラマはその化身と仰がれています。
 十一面観自在菩薩心密言念誦儀軌経によれば、十種類の現世での利益(十種勝利)と四種類の来世での果報(四種功徳)をもたらすと言われています。
 【十種勝利】
    離諸疾病(あらゆる病気にかからない)
    一切如來攝受(一切の如来に受け入れられる)
    任運獲得金銀財寶諸穀麥等(金銀財宝や食物などに不自由しない)
    一切怨敵不能沮壞(一切の怨敵から害を受けない)
    國王王子在於王宮先言慰問(国王や王子が王宮で慰労してくれる)
    不被毒藥蠱毒。寒熱等病皆不著身(毒薬や虫の毒、悪寒や発熱等の病状に毒されない)
    一切刀杖所不能害(一切の凶器によって害を受けない)
    水不能溺(溺死しない)
    火不能燒(焼死しない)
    不非命中夭(不慮の事故で死なない)
  【四種功コ】
    臨命終時得見如來(臨終の際に如来とまみえる)
    不生於惡趣(悪趣、すなわち地獄・餓鬼・畜生に生まれ変わらない)
    不非命終(早死にしない)
    從此世界得生極樂國土(今生のあとに極楽浄土に生まれ変わる)

 

 十一面観音はその深い慈悲により衆生から一切の苦しみを抜き去る功徳を施す菩薩であるとされ、女神のような容姿に造られたものが多い中、大雲寺の観音様は聖武天皇のお姿を模した故に、雄々しく男性的な御尊顔です。
 十一面観音像は頭部正面に阿弥陀如来の化仏(けぶつ)を頂き、頭上には仏面(究極的理想としての悟りの表情)、菩薩面(穏やかな佇まいで善良な衆生に楽を施す、慈悲の表情。慈悲面ともいう)、瞋怒面(しんぬめん。眉を吊り上げ口を「へ」の字に結び、邪悪な衆生を戒めて仏道へと向かわせる、憤怒の表情。忿怒面(ふんぬめん)ともいう)、狗牙上出面(くげじょうしゅつめん。結んだ唇の間から牙を現し、行いの浄らかな衆生を励まして仏道を勧める、讃嘆の表情。牙上出面あるいは白牙上出面ともいう)、大笑面(だいしょうめん。悪への怒りが極まるあまり、悪にまみれた衆生の悪行を大口を開けて笑い滅する、特殊な笑顔。暴悪大笑面ともいう)など、各々に複雑な表情を乗せ、右手に錫杖、左手には蓮華を生けた水瓶を持っています。この像容は玄奘訳の「十一面神咒心経」に基づくもので、通例、頭頂に仏面、頭上の正面側に菩薩面(3面)、左側(向かって右)に瞋怒面(3面)、右側(向かって左)に狗牙上出面(3面)、拝観者からは見えない背面に大笑面(1面)を表わしています。

ご 利 益 (ごりやく)

脳病(首から上)平癒の観音霊場として平安時代から朝野に知られ、精神疾患者に霊験があるとして多くの参詣者・参籠者を集めました。今日もご利益を求める善男善女の参拝が絶えません。

関連ページ

霊泉「観音水」
京都大雲寺の千年の信仰と歴史を紹介する、公式ホームページ。円融天皇勅願寺で脳病・難病平癒祈願で世界的に有名。

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